「あなたは、トラバンでプロダクトアウトのままじゃ、いくら合併しても徒労だ、という意見だが、トラバンでプロダクトアウトの地域金融機関が生き残る可能性はないのか?」
憮然とした表情で、ワタシにこういう問いかけをされる方は少なからずいます。
「合併しても徒労」という言葉づかいへの反発には理解を示しますが、ワタシが強調したいのは、
「合併のために費やすコスト(機会費用も含め)や、異なる企業文化の激突に伴うエネルギーの浪費やヒューマンアセットへの悪影響(残ってほしい人材の早期退職増も含む)等を勘案すれば、合併効果が出るまでの時間は長く、その間のマイナスは思いのほか大きい」
ということです。
さらに言うと、トラバン・プロダクトアウトの金融は参入障壁が低く、やっとのことで合併効果が現れるころには、トラバン金融市場は段違いのスピード感のある異業種に席捲されており、合併努力は水の泡になるということです。
地域金融機関がトラバン/プロダクトアウト・オンリーで規模を追求すること(これが今の地域金融機関の主流派)を否定するつもりはありませんが、その場合、経営陣が現有のメンバーやそれに連なる人たちの思考回路では行き詰まることは明白です。
トップを含む経営メンバーをその道に一日の長がある異業種等から招聘することが必須となるでしょう。
果たして、それができるか?
日本経済新聞社の書籍「リージョナルバンカーズ~地域金融が勝ち抜く条件」(2021年11月)を読んで感じたことの一つです。
コメント
トラバン合併コストとして整理された3点目のHAの毀損は、合併しようとしまいと生じて、かつ他の合併コストと異なりトラバンを続ける限り続くという点が重要です。ウェルビィーング経営の観点から問題であり、やがて経営資源の枯渇につながります。ただしこの点の咎めはすぐには来ないので自分の短い任期期間だけを考えるトラバン経営者には痛痒はないのでしょう。
師走で引出や棚を整理していたところ、2017.06.29の現代ビジネスオンラインに掲載された
「易きに流れる」集団になり下がった地銀・信金・信組よ、目を覚ませ、という多胡先生のプリントがありました。
—地方銀行は地域産業を育成してきた長い歴史、信用金庫や信用組合も相互扶助の精神で小規模零細金融を支えてきた。ところがバブル崩壊の後遺症から地域金融機関の多くは融資の原則を忘れ、担保・保証に依存するプロダクトアウト型金融となってしまった。優良企業には熱心で業績不振企業には冷たい。財務が悪化すれば手のひら返しで回収に走り、手間のかかる事業再生は避けて通る、自己中心の金融機関になってしまった。
しかしマイナス金利でプロダクトアウト型金融機関は収益を生み出すことは難しくなり、統合合併でのスケールメリットと効率化で生き残ろうとしているが、厳しい販売ノルマと顧客への後ろめたさ追われる職員を繋ぎとめられるか、顧客に選んでもらえるか?―
という要旨で懐かしく再確認させて頂きました。
そして今日の「どうしてもトラバン銀行を続けたいのなら」でトップを含む経営メンバーを異業種等から招聘することが必須とありましたが、「ファイナンス思考」の著者朝倉祐介氏は「売上を増やせ、利益を減らすな」「減益になりそうコストを削れ」「うちは無借金なので健全」「黒字だから問題ない」というフレーズが溢れる組織は「PL脳」という病にかかっている。こうしたPL脳では21世紀の事業環境を御することは出来ないと言い切っています。金融機関に勤める人間の多くは、朝倉氏のいう「PL脳」病人間と思います。
目先の利益・横並び・形式・体裁をまず第一に考える経営であっては、サステイナブルな組織体を作ることは難しい。
地域金融機関の再生は、遠回りと思われる「リレバン」への転換が最良の選択。
そしてリレバンを機能させる為に無形の資産(人、組織風土、システム)への集中投資を検討するべき。(組織風土は金以上に職員への思い、期待・任せるという投資)